2004-02-27

近況

職場のそばのうどん屋で "ねぎぬき" と注文している客を目撃, 衝撃をうけた. それは かつて栄華を極めながら今や壊滅の危機に瀕している 24 時間営業の牛丼帝国でのみ通じうるジャーゴンではなかったか. ここでとっさに Google を頼る自分はもはや自身の常識を放棄している. ハイパーテキストによって分断化された世界では常識に意味などない, Web は権力に支配された世界から私達市民が言葉を取り戻すための新たな地平なのだ, なんていうのが寝言だと私達は経験的に知っている. とはいえ, 経験則で他人を説得するのは難しい. そこで ある研究者 は実際にデータを集めて実証を試みた. Web は万人に公平ではない, むしろひどく偏っているというその法則を彼は "Googlearchy" と呼ぶ.

Googlearchy

この研究は別段新しいことを言っていない. ウェブサイトの参照関係を調べ, サイトの数と獲得リンクの関係は power law であるという Linked な事実を示しているだけ. ただ既存研究との違いを意識してか, データの集め方にはそれなりに気をつかっているかんじ: まず seed set という開始ページを選ぶ. このページは Google や Yahoo の検索結果トップから数百件をつかう. (キーワードには "中絶" や "銃規制" のような政治的な用語を採用している.) そのページを出発点に, 深さを制限した幅優先探索でページを収集していく. これは検索エンジンで調べたページからリンクを辿るという一般的なウェブ閲覧様式をモデル化しているらしい.

it is clear that profound inequalities among Web sites complicate

both initial hopes for the medium and more than

a few current characterizations of it.

This research is a first step, both in the theoretical literature

it brings to bear on these political science problems and

in the methodology it implements.

The data we present on Web site inequality, however, is remarkably strong.

実験結果を示しながら, 著者らはごく少数のページによるリンク独占という不平等の事実を何度も繰り返し強調し, web にまつわる伝聞や幻想を否定する. 全ての Web は retrievable であるかもしれないが, 決して visible ではないのだと主張する口調のくどさを見ると, ウェブ浸りの暮らしをしている人にとっては自明でもそうでない人には言っておきたいことがあるのだなと思う. 外側にある視点は大切にしたい. Web は帝国による占有からねぎぬきを救う助けにはならない. だからたとえば口臭を気にするうどん愛好家という少数民族の声を知りたいのなら, 私達はこれまで以上に注意深く耳を澄まし続けねばならいのだ.

一方こうも思う: あるいはもしかしたらひょっとして, この人は思いついてしまった言葉をただ使いたかったんじゃなかろうか. Googlearchy! その気持ち, よくわかります.