2004-04-03

近況

見積ったデッドラインから一箇月削った一里塚に対し, そのまた半分を大ボスにリクエストされ途方にくれる. どうしたものか. 提示された何かに対してその半分と切り返すのが今年の彼の戦略だとも伝え聞く. 限定し修飾された肯定は幾百ものことばで示しうる. イエスとオーケーの降りしきるなか, 月給付フィールドワークを経た私はそう学んだ. あなたにはまだ知らないシーニュがあると私を諭す指導教官の, 豊穣な語彙の地平は遠い.

以下最近読んだ本:

アースシーの風 ゲド戦記 5

竜は死を恐れないのに, 人間は死を恐れるんですね. 人間はまるで箱に入れた宝石みたいに命を惜しんで, 大切にそれを持ちたがる. 昔の魔法使いたちは永遠に命が続いてほしいと願って, 人を死から遠ざけておくために真の名まえを使うことまでしたものです.でも, 死ぬことができなければ, 人はけっして生まれ変わることだってできないのに.

見事な大円団にライトノベルでもいけますという印象. 伏線の解決が主眼なのかも. 船で走る多島海が幼少の読書体験をよびさまし, 一巻から読みたくなる.

DNA

それは最高の瞬間だった. 私たちはそれが正解だと確信した. これほど単純明快な構造は正解に決まっていた.

ワトソンとクリックのワトソンが買いた遺伝子工学の歴史読みもの. 歴史上の大事件が一人称で語られる違和感は楽しい. 悲しいのは生物学の知識がないためにでディティールがさっぱりなこと. 勉強して読みなおしたら全然楽しさも違うのだろうなと思う.

ディキンスン詩集


三時半に一羽の小鳥が

沈黙の空に

用心深いメロディーの

一節を提案した


シミックつながり. 何種類かの訳が載っている. 新倉俊一のがいちばんよかったな. 原文は Project Gutenberg でよめるのか. 1, 2. 語学の神よ宿りたまえ.

村上春樹と柴田元幸のもうひとつのアメリカ

"世界はアメリカ化していくしかなくて, 食べ物はマクドナルド化し, カフェはスターバックス化していくなかで, 僕はアメリカ文学におけるマクドナルドなのかと不安になることもちょっとはあるわけですよね. もちろんマクドナルドではないと思いたいわけですが, どうしてマクドナルドではないといえるかといえば, 要するに個人の好みと偏見で選んでいるということいつきるのかな. まあだいいちそんなに売れないし."

著者は批評家. 前半は村上春樹論で特に読むべき点なし. 後半は柴田元幸へのインタビュー. こっちはかなりいい. それはさておき, 三浦雅士ってもっと硬派な人だと思っていた. こんなにミーハーだとは... 青春の終焉 は感傷的ながらももっと抑えた感じだった気がする.

翻訳語成立事情

多和田葉子つながり. "社会" とか "恋愛" のように固そうな日本語が実は翻訳による造語だったり, 翻訳によって意味を変えられたりした言葉なのだというような話. 翻訳語のもつ根拠のない権威を著者は "カセット効果" と呼び批判する. そういうハッタリは今でもあるものの, 漢字を使う翻訳語は字句レベルでの怪しさチェックができない点で優れている. 三文字アルファベットで年寄をたぶらかす情報産業の人々はまたまだ素朴だと思い知った.

一方で "カセット効果" は複雑な問題をとりあえず保留したまま概念を伝えることができるという利点(?)についても指摘がある. それが日本の近代化に寄与したと. 不十分なカプセル化で苦しむ情報産業従事者はここでも未熟さを痛感.

鼻行類—新しく発見された哺乳類の構造と生活

出典が読みそびれていた詩集 絞首台の歌 だと知り歯ぎしりする. これに出てくる動物にひたすらディティールを与えて博物誌にした本. 平行植物 よりはだいぶ読みやすく, 絵も楽しい.