2004-10-31

近況

私は快楽のために小説を読む.

人が抱えていられる感情の量は一定で, それは RLU なのだが限りなく FIFO に近い性質を持っている. すくなくとも私のメンタルモデルはそういう風にできているから, 小説を読んで湧き上がる感情は古いものをぎゅっと押し出してくれる. そうやって私は混乱から逃れることができるし, 苦痛を柔らげることができる. すがるように活字を読みすすめると, あるとき平安がおとずれる. それから感じる. 私は快楽のために小説を読んでいるのだと.

最近読んだ本 (ちょっとずつ)

もっとこまめに web を更新しなさいと通達を受けた. いままではある程度アイデアや読んだ本がまとまってから文章を書こうとしていたけれど, 時間と気力がそれを許さず結局何もかけずにいた. だからこまめに少しずつ何かを書いていくのはたしかに良い方法におもえる. Web 日記というのは生存通知でもあるしね. ということでちょっとずつ.

体の贈りもの (レベッカ・ブラウン)

ところが次の瞬間, デイヴィッドが隣の男に話している声が聞こえてきた. 次の次の夏に, 上の子が小学校を卒業したら彼とマーガレットとで子供たちをディズニーランドに連れていくんだと言っていた. "次の次の夏" と言ったのを聞いて, 私の目がさっとデイヴィッドの方を向いた. ほんの一瞬だったけれど, マーガレットは見逃さなかった. あとどれくらい生きられるのだろう, と私が考えているのを彼女は見てとった.

私はマーガレットに謝りたかった. でも何も言えなかった.

マーガレットはまだ私を見るのをやめていなかった. "あなたにやってもらえることがあるわよ" と彼女は言った.

彼女は私の頬に片手を当てた. 二人でリックを車に乗せたあのとき, 彼女が私の顔に触れた手ざわりを私は思い出した. 彼女の手が私の肌にくっつくのを感じた. 彼女は言った --- "もう一度希望を持ってちょうだい"

終末医療ホーム・ケアから切取られたいくつかの場面が極めてシンプルな筆致で描かれる. 同情や共感といったありきたりさでくくりたくない. 死期の近いマーガレットが "私" を励ます場面では, ほとんど死にゆくことに憧れそうになる. 死は人に強さを与えるのかと. もちろんそうではなく, 死を前にしても揺がない強さこそがその憧れの正体なのだが.

これこそ快楽の書. レベッカ・ブラウンは 私たちがやったこと もよかったけど, だいぶ雰囲気が違う. 底の知れない人だな.